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中田靖泰

転石 是か非か?

アメリカの友人に暫くぶりに会いました。この男の特徴は会う度に仕事が変わっているということです。渡された名刺を見て「また、変わったのか?」と訊くと、「A rolling stone gathers no moss.」と言って涼しい顔をしています。日本語に訳すと「転がっている石には苔ははえない=転石苔むさず」という意味です。この諺は元来イギリスの諺で「仕事や住所や考え方を簡単に変える人間は人に信用されず、大成しない」という意味でした。日本の「石の上にも三年」と同じように忍耐、努力を説く諺だったのです。

しかし、この諺が新しい移民の国アメリカに渡ると全く正反対の意味になります。アメリカでは、動かず耐えて待っていては成功はできません。行動すること、変化することが美徳となります。動き、転がり、常に新鮮で光り輝いていることは能力の証明なのです。

同じ諺が国や時代により違う意味で使われることは珍しくありません。例えば、「情けは人のためならず」は元来「情けは他人のためにするのではない。まわりまわっていずれは自分に返ってくる」という意味なのですが、今では「情けは(その人のために)ならない」と考えて、「安易に人に情けをかけるべきではない」という意味に使う人が多くなりました。

私自身あまり大きな顔はできません。私は「犬も歩けば棒に当たる」という諺は、「なにかしていれば意外ないいことに出会うことがある」といういい意味だと思っていました。大学に入ってはじめて、この諺は「犬がうろうろ外を出歩くと棒でぶたれることもある。だから余計なことにでしゃばるものではない」という戒めの諺なのだということを知りびっくりしました。

その他、「マゴにも衣裳」とお孫さんに服を買ってあげるおじいちゃん、おばあちゃん、「可愛い子供には旅をさせろ」と子供に豪華海外ツアーをプレゼントする親御さんもいると思います。

しかし、諺の意味は時代環境、民族により変わるものです。いずれ、「情けは人のためにならないから人には厳しく接した方がよい」という解釈が主流になることもありえるかもしれません。石は転がる方がいいのでしょうか。3年苔が生えるまでじっと我慢する方がいいのでしょうか?イギリス式「我慢の教え」は安定した平和な時代には相応しいが、時代はアメリカ式の「動いて成長」に傾いているのではないでしょうか。ちょっと寂しい気持ちになります。

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