健康予報(予測医学)
インフルエンザの流行パターン
医療法人社団慶友会吉田病院
吉 田 威
平 田 一 広
吉 田 良 子
加 賀 崇 義
八木田 政 彦
佐 藤 真
Stephen R.Greenhow
Adrian J.Tanner
はじめに
インフルエンザは1918年のスペインかぜ,1957年のアジアかぜ,1968年の香港かぜの大流行を起こしながら流行の起伏を繰り返し今日に至っている。
ここでは最近10年間の流行の規模とそれに影響を与える因子について検討し,流行予測,防疫まで言及したので報告する。
検索対象
1 過去10年間のインフルエンザ流行パターン
日本医事新報サーベイランス情報@をもとに1987年から1996年までの流行の状況を検索した。
2 流行ウイルスの型とインフルエンザ流行の規模
流行したウイルスの型は,日本科学技術情報センターAと各都道府県の衛生研究所の報告を対象とした。
3 気象状況とインフルエンザ流行の規模
災害死者・不明者数は理科年表Bの気象災害から,また気象状況は気象年鑑Cを検索資料とした。

表1 インフルエンザ流行規模と流行ウイルスの型、気象状況
患者数
(ピークの週)
|
'87年
44,890
|
'88年
70,352
|
'89年
41,948
|
'90年
96,053
|
'91年
41,523
|
'92年
54,203
|
'93年
126,055
|
'94年
14,441
|
'95年
132,589
|
'96年
55,829
|
流行
ウイルス
|
A(H1N1)
|
A(H3N2)
B
|
A(H1N1)
|
A(H3N2)
B
|
A(H1N1)
A(H3N2)
B
|
A(H1N1)
A(H3N2)
|
A(H3N2)
B
|
A(H3N2)
B
|
A(H3N2)
B
|
A(H1N1)
A(H3N2)
|
前
年
の
気
象
状
況
|
災害死者
不明者数
|
61人
|
54人
|
48人
|
66人
|
136人
台風上陸数
最多の6回
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144人
多かった台風
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31人
|
219人
西日本豪雨冷害
|
31人
|
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雨(降水量)
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少ない
|
少ない
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平年並み
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太平洋側は上回る
日本海側は少ない
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7月まで水不足
8〜11月多い
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多い
|
平年並み
|
かなり多い
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かなり少ない
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北ほど多い
東・西日本少ない
|
|
日 照
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7月まで日照不足
8月から多照
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やや多い
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夏、日照不足
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平年並み
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夏、上回っている
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日照不足
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少ない
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かなり少ない
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かなり多い
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日本海側は少ない
太平洋側は多い
|
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夏
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平年並みの気温
8月上旬東日本大雨
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平年より高い気温
関東・近畿少雨
北日本・中国・九州多い
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記録的低温
日照不足
長雨
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北日本・北陸は猛暑・干天
東日本・西日本は局地的大雨、低温
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猛暑
少雨で水不足
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8月、全国的な低温
短い夏
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猛暑から低温へ
北・西日本の日照不足
東日本少雨
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記録的冷夏
日照不足
長雨
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猛暑
少雨
|
記録的高温
多照
東・西日本少雨
|
患者数赤の年は、流行の多い年(最大報告数60,000以上)
結 果
1 過去10年間のインフルエンザ流行パターン
この10年間のサーベイランス報告の定点は2406から2424で増加は少なく各年の患者数の比較に支障はない。87年以降の日本におけるインフルエンザ流行のパターン(毎週の患者数をグラフに表現)を図1に示している。 患者数で60,000を境に流行の多い年,少ない年に分けると,流行の多い年の前後の年はすべて流行の少ない年である。
インフルエンザの流行はこの10年間で92年の例外を除いて1年毎に多い少ないを繰り返している。
2 流行ウイルスの型とインフルエンザ流行の規模
インフルエンザ流行の多い年のウイルスは,表1にみるように全てA(H3N2)型(以後はAH3と表現する)とB型ウイルス(以後はBと表現する)の組み合わせである。
A(H1N1)(以後はAH1と表現する)単独,あるいはAH1とAH3の組み合わせ,AH1とAH3とBの組み合わせなど,AH1と協調した年は全て流行は少ない。
この10年間のウイルスの型の流れは,87年から4年間はAH1単独と,AH3・Bの組み合わせが交互に支配し流行の多少も規則性を有していた。
91年にはAH1,AH3,Bの3種のウイルスが協調しこの年からウイルス支配の規則性は崩れ,AH3は消失することなく現在まで継続して流行している。93年から3年間はBとの混合流行を続け,92年と96年はAH1との混合流行となっている。
流行の周期を変えた92年と10年間の流行の規模から極端に少ない94年について検討する。ウイルスの型でみると,92年はAH1とBの混合流行でAH1の影響で少ない年になったと考えられる。94年はAH3とBの混合流行で10年間の分析でも唯一ウイルスの型だけでは説明できずしかも極端に少ない流行である。ここに流行の規模がウイルスの型の組み合わせ以外の因子の可能性を想定した。
96年は再びウイルスの型と周期に従って少なくなっている。
3 気象状況とインフルエンザ流行規模
表1から,インフルエンザの流行が抑えられた92年,94年の前年の気象状況に注目した。ここで興味ある4項目の共通点がみられた。
1)長雨などで降水量が多い
2)日照不足
3)短い夏あるいは冷夏
4)台風や豪雨の災害被害者(死者,不明者)数が多い。
インフルエンザの流行が多い年の前年の気象状況をみると,降水量では地域差はあるが平年並みから水不足となっている。日照についても平年並み,多いから少ないなど一定していない。夏も猛暑から,北日本は猛暑だが東日本は低温など一定していない。災害被害者も92年、94年の前年に比べて少ない傾向がみられる。
また,冬の気象についてはこの10年間は暖冬が続き年による顕著な特徴はみられない。
考 察
インフルエンザの流行規模は,この10年間では1年毎に多い少ないを繰り返す規則性を保ち推移してきた。
インフルエンザ流行の多いのはウイルスの型でみるとAH3とBの組み合わせで,AH1を含む複数の型が協調したときは流行は少ない傾向を示した。インフルエンザの流行の規模にウイルスの型が大きな影響を与えることを示唆している。
流行の周期を変えた92年と,AH3とBの組み合わせにかかわらず流行が少なかった94年に注目し気象状況との関与について分析した。その結果は表1にみられるように前年の気象に次の共通点がみられた。
1)長雨などで降水量が多い。
2)日照不足
3)短い夏あるいは冷夏
4)台風や豪雨の災害被害者(死者,不明者)数が多い
これらの気象状況は直接ウイルスに影響を与えるか,中国大陸からのウイルスの伝播に影響を与えるのかまた感染するホスト側に問題があるのかなどは今後の研究課題である。
以上の点から例えば97年(今度の冬)のインフルエンザの流行規模を予測すると,流行規模の周期からは,多い年である。ウイルスの型は,96年の春先のウイルスがAH3とBだったので97年は引き続きAH3とBが流行すると予想されていることから,多くなる傾向を持つ。今年の天気の様子からは,台風や大雨が目立って多くなく,短い夏・冷夏でもないことから流行を抑える因子はない。したがって97年のインフルエンザの流行は多くなるだろう,と予測できる。
インフルエンザの流行が多くなりそうであるこの予測を我々はインターネットで1996年10月22日に発信した。そして,ワクチンの接種を同時に呼びかけた。特に,老人,幼児,受験生に強く薦めた。また,抗ウイルス剤(塩酸アマンタジン)は米国,ヨーロッパでは予防目的で流行期に使用されているD。日本では,パーキンソン病の治療薬(商品名 シンメトレル)として使用されているが,すでに北本らEによってインフルエンザA香港型への有効性については報告されている。インフルエンザによる被害は,抵抗力の弱い乳幼児,高齢者に強く出ることは明らかである。我が国はインフルエンザのワクチン接種率が欧米諸国に比べて極端に低く危機管理体制もほとんど施されていないことは,近々新型ウイルスが出現しインフルエンザの大流行が世界各国の専門家により予測されていることから考えると極めて心配である。
我々の独自の仮説,特に気象状況とインフルエンザ流行規模の関係を検証していきながら,国レベルの早急なインフルエンザ対策を望んでやまない。
〔参考文献〕
@日本医事新報,日本医事新報社,1987年No.3275から1996年 No.3757まで
A科学技術文献速報ライフサイエンス編,日本科学技術情報センター,1988年版から1996年版まで
B理科年表,国立天文台,平成8年版,411頁から415頁まで
C気象年鑑,日本気象協会,1987年版から1996年版
DPhysicians' Desk Reference,Consult 1994 Suppl. for revision
E北本 治,日本医事新報,日本医事新報社,1970年No.2396
1996.12.03 掲載
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