肺炎ワクチンについて
2月15日に東京で「肺炎球菌ワクチン研究会」が開かれました。司会は長崎大名誉教授 松本慶蔵 先生で、ほか演者3人の発表を要約します。
米国防疫センター(CDC)の報告によると、65才以上の肺炎ワクチン接種率は、米国では45%以上、日本では0.1%以下。米国では現在、高齢者のハイリスク群において、インフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンの併用が推奨されており、高い臨床的有効性も認められている。
■■ ワクチンの現状と必要性 ■■
国立感染症研究所名誉所員 大谷 明 先生
1.生ワクチンと不活化ワクチンの特性と有効性
ワクチンの歴史は、200年前のジェンナーの種痘法を発明したことに始まる。現在ワクチンは細菌、ウイルスの病原体を弱毒化した生ワクチンと、病原体の免疫原性を保持した状態でホルマリンなどの薬剤処理で毒素活性を消失させた不活化ワクチンの2つに大別される。両者はそれぞれ異なる特性を有し、生ワクチンはT細胞による細胞免疫であるのに対し、不活化ワクチンはB細胞による抗体産生である。その他の特性は表1にまとめてある。
細菌ワクチンは不活化ワクチンが主流で、生ワクチンが使用されているのは乾燥BCGワクチンのみである。一方、ウイルスワクチンは生ワクチンが広く使用され(天然痘ワクチン、生ポリオワクチン、麻疹ワクチン、風疹ワクチン、黄熱ワクチン、おたふく風邪ワクチン、水痘ワクチン、などなど)、不活化ワクチンは、インフルエンザワクチン、B型肝炎ワクチン、日本脳炎ワクチンなどである。
| 事項 | 生ワクチン | 不活化ワクチン |
| 誘導する免疫 接種回数 免疫の持続 製造工程 生産価格 保存性 副反応 開発の難易度 |
主にT細胞による細胞免疫 1回投与により有効 永続性 単純 安価 不安定 毒性復帰など時に重大 予見困難 |
主にB細胞による抗体産生 数回接種 一時的 精製行程を含め複雑 高価 安定 概ね一過性 概ね予測可能 |
2.ワクチンの安全性
ワクチンの副反応、安全性の点では未だ改良の余地を残す。その問題点は表2に示す。遺伝的特異体質なども関与しており、予知不能である。実際にはワクチンは偽装的抗原により体の反応を促すものであり、副反応なしが理想だが、副反応皆無のワクチンはないといえる。
この安全性の問題を含めて各国家検定に合格したワクチン製剤のみが市場に流通している。
| 種別 | ワクチン名 | ワクチン材料 | 接種対象 | 免疫有効 期間 |
副反応 |
| 生 ワ ク チ ン |
経口生ポリオ ワクチン |
サル腎細胞 | 生後3〜 18ヵ月幼児 |
永久 | 麻痺型ポリオの 発症 |
| 乾燥弱毒生 麻疹ワクチン |
ニワトリ胚 繊維芽細胞 |
1〜3歳 | 永久 | 発熱、稀に熱性 痙攣 |
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| 乾燥弱毒生 風疹ワクチン |
ウサギ腎細胞 ウズラ胚 繊維芽細胞 |
12〜14歳 女子 |
永久 | 発熱、発疹、リン パ節腫脹、関節痛、 妊婦ではウイルス が胎児に移行する ことあり |
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| 乾燥弱毒生 おたふく風邪 ワクチン |
ニワトリ胚 繊維芽細胞 ふ化鶏卵羊水 |
3〜5歳 | 永久 | 特になし | |
| 黄熱ワクチン | ニワトリ胚 繊維芽細胞 |
年齢、時期を 問わず黄熱 常在地旅行者 |
10年 | 接種5〜8日後に 頭痛、腰痛、全身 倦怠感、稀に発疹、 浮腫等のアレル ギー反応 |
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| 乾燥弱毒生 水痘ワクチン |
ヒト二倍体 細胞 |
未感染高危険 群児 |
永久 | 発熱、軽い水痘、 軽い帯状疱疹 |
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| 不 活 化 ワ ク チ ン |
インフルエンザ HAワクチン |
ふ化鶏卵尿液 | 3〜17歳 | 6ヶ月〜 1年 |
局所の発赤、腫脹、 疼痛、発熱、全身 倦怠感、稀に脳症、 アメリカで多発性 神経炎の報告あり |
| 日本脳炎 ワクチン |
マウス脳 | 3〜15歳 | 3〜4年 | 局所の発赤、腫脹、 発熱、全身倦怠感、 痙攣の既往のある 者に誘発すること あり |
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| 沈降B型 肝炎ワクチン |
ヒト血漿 | 一般水平 感染予防 |
数年? | 局所の発赤、腫脹、 疼痛 |
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| 母子感染 予防 |
数年? | 局所の発赤、腫脹、 疼痛 |
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| 乾燥組織培養 不活化狂犬病 ワクチン |
ニワトリ胚 繊維芽細胞 |
流行地旅行者 | 1年 | 局所の発赤、腫脹 | |
| 暴露後治療 | ? | 局所の発赤、腫脹 |
3.感染症に対するワクチン開発
現行ワクチンで改良すべきもの、開発途上のワクチンがある(表3)。開発途上のワクチンには、マラリア、結核、エイズ、経鼻型インフルエンザワクチンがある。
感染症にかかってからの治療より、予防による疾病対策が勝ってることは言うまでもない。これは感染症ばかりでなく種々の生活習慣病にもあてはまる。そして、その予防に対して最も科学的な武器はワクチンであるといえる。ワクチンは人の免疫反応を誘導する目的で開発される薬剤で、感染症ばかりでなくアレルギー疾患、自己免疫疾患やガンなどにも有効な治療のひとつになりうるだろう。
| 改良すべきワクチン | 開発途上ワクチン |
| ・MMRワクチン ・日本脳炎ワクチン ・複合ワクチン ・コレラワクチン |
・マラリアワクチン ・結核ワクチン ・エイズワクチン ・経鼻型インフルエンザワクチン ・腸管毒性、出血性大腸菌ワクチン |
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開発予想ワクチン → ガンワクチン(治療用) |
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■■ 肺炎球菌ワクチンとその普及 ■■
東京専売病院院長 島田 馨 先生
1.肺炎球菌ワクチン
肺炎球菌は、1880年に Pasteur と Stanberg
によって発見され、この菌が肺炎と関係することが明らかになった。1927年に最初の肺炎球菌ワクチンが開発されている。
WHOが世界各地の成績から23価ワクチンが、肺炎球菌性肺炎の起炎菌の80%をカバーしていると報告している。実施は、ワクチンを1回0.5mlを皮下または筋肉内に注射する。感染防御レベルの抗体価を持つ人の割合は、ワクチン接種前の3.3%から接種後には76.7%へと著明に増加した。ワクチン接種による副反応としては発熱、疼痛、腹痛などが認められたが軽いもので、仕事に差し支えるような重篤なものはなかった。(図1)
図1.23価ワクチン接種による抗体価の上昇
2.肺炎球菌ワクチンの適応
肺炎球菌ワクチン接種は高齢者が中心となるが、Butler
らは、糖尿病で84%、心血管疾患患者で73%、うっ血性心疾患患者で69%、慢性閉塞性肺疾患(COPD)および喘息患者で65%の肺炎予防効果を認めている。
1980年の米国調査では15〜20%がワクチンで肺炎予防可能であり、開業医受診の20%がワクチン接種の対象者になり、肺炎球菌感染で死亡した人の90%が接種対象のハイリスクグループだと推定される。
ワクチンは本邦では有効な抗体レベルが5年以上持続することから、1回限りの接種が原則だが、米国ではハイリスクグループについては再接種を行うように変わってきている。
3.薬剤耐性菌と肺炎球菌ワクチン
最近ではペニシリン低感受性肺炎球菌(PISP)、ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)で40%を占めている。
Breiman
らの報告によると、肺炎球菌ワクチンはPISP、PRSPに対しても有効性が期待できるという。65才以上のCOPD患者を対象に、肺炎球菌ワクチンとインフルエンザワクチンの併用効果を検討した
Nichol
によると、インフルエンザワクチン接種により入院率は52%、死亡率は70%低下したが、肺炎球菌ワクチンを併用すると入院率は63%、死亡率は81%低下するなど、10%以上の上乗せ効果があったと報告している。(図2)
図2.肺炎球菌ワクチンとインフルエンザワクチンとの併用効果
■■ 肺炎球菌ワクチン 世界の現状 ■■
Aventis Pasteur MSD David S. Fedson M.D.
23種の莢膜多糖体を含む23価肺炎球菌ワクチンは、肺炎球菌性疾患から分離される菌型の90%以上をカバーする。
接種部位の軽度の局所的副反応が発現するが重篤な副反応が発現することは極めて少ない。抗体価は3〜5年で低下する。
1.肺炎球菌ワクチンの臨床的有効性
Austrian
らが南アフリカの鉱山労働者12,000名を対象にした成績では、ワクチン接種により肺炎球菌性肺炎は78%減少した。X線で診断された肺炎も53%減少している。
一方高齢者に対する検討では、77%の有効率を示したという無作為比較試験がある反面、有意差を認めないという成績もあり、効果は確率されていない。
米国でのケースコントロール試験ならびに間接コホート試験でみるとデンバーでの結果を除き、ワクチンにより肺炎球菌性疾患が56〜81%予防できることが示されている。(表4)
| 菌 型 | 試験実施地 | 症例数 | 有効率(%) | 95%信頼区間 |
| ワクチンタイプ± | Connecticut | 983 | 56 | 42.67 |
| ワクチンタイプ関連 | Denver Alaska CDC* |
89 87 - |
-21 79 57 |
-221.55 49.92 45.66 |
| 全菌型 | New Heaven Connecticut Philadelphia Charlottesville Alaska Tronto** |
90 1054 122 85 159 ns |
67 47 70 81 64 63 |
13.87 30.59 37.86 34.94 32.81 13.85 |
| *間接的コホート試験:ワクチン接種者515名、非接種者2,322名 **間接的コホート試験 |
||||
またCOPD1,892例の後ろ向きコホート試験から、Nichol らはインフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンの肺炎入院率減少効果を検討した。
インフルエンザ流行期にはインフルエンザワクチンで54%、肺炎球菌ワクチンで39%減少し、インフルエンザ感染非流行期にはインフルエンザワクチンで7%、肺炎球菌ワクチンで45%減少している。(表5)
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有効率(%) |
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| インフルエンザ流行期 | インフルエンザ非流行期 | 全体 | |
| インフルエンザ ワクチン |
54 | 7 | 53 |
| 肺炎球菌ワクチン | 39 | 45 | 43 |
2.肺炎球菌ワクチンの安全性
接種日から2日後にかけて腕の疼痛などの局所反応は2〜3%、筋肉痛、37.5℃以上の発熱は10%以下だった。3,100万件以上を対象にした副反応発現率でみると、全身性または局所性の副反応発現は10万件に対して5.3件、うち重篤なものは0.9件と極めて少なかった。ちなみに、日本からの報告ではアナフィラキシー発現は認められず、接種後の死亡例もない。
世界各国の肺炎球菌ワクチンの普及動向をみると、米国では1990年から接種率が著明に増えて現在では全高齢者の50%がインフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンの接種を受けていると推定される。(図3)
また、カナダのオンタリオ州では3年以内に同州の全高齢者にワクチン接種をする方向にある。
図3
呼吸器疾患患者、高齢者に肺炎球菌ワクチンとインフルエンザワクチンを接種して、肺炎球菌疾患を予防することが大切である。
以上、第1回「肺炎球菌ワクチン研究会」から抜粋して取り上げました。